ムイクン ―無法者の聖所―

冒険日誌

きっかけは些細なことだった。
酔っ払った貿易商人が難癖をつけてきたから、軽く小突いてやったら盛大にひっくり返った。
商人は激昂して護衛の者たちに私を捕えろと言った。護衛も暇だったのか妙にやる気を出していた。
やれやれと軽く相手をしてやるつもりだった。だけど、またしても打ち所が悪かったのか、私の相手をしていた者はアール神の下に召されてしまった。
こうなってはもう冗談ではなくなった。
明らかな敵意に対してどう振る舞えばいい?
正当防衛だと主張しても一介の冒険者とバレンシアに名を馳せる貿易商団。どちらの言い分が正しいとされるかは明白だった。
かくして私はお尋ね者となった。
都市では衛兵から追われるため、砂漠を彷徨うゴロツキとなった。
不思議なもので、こうなってしまうと、ただ暑かっただけの砂漠が、どこか心地よい場所に変わっていた。
そんな生活を続けていると、人を見る目が良くなっていることに気がついた。身なりや振る舞い、そして目を見れば、どんな人物なのか大体の察しがつくようになっていた。特に、私と同じように都市に入れず砂漠を放浪する無法者、これはすぐにわかった。


だからここに辿り着くのも必然でもあった。
とある放浪者が口にしたムイクンという地図に載らない村の名前。
バレンシア王家の汚点とも言える大犯罪人カヤル・ネセルの下に集まった無法者による村。
砂漠の端、岩山の切れ目にある村への入口。
私はそこから村まで何人もの住民とすれ違ったが一言も喋らなかった。
目を見れば、わかるのだ。言葉はいらない。
この村で認められるのは、同じ空気の中で生きている者だけなのだから。

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